【楽しく学べる】スーパーマーケットビジネスモデル解説②~スーパーの売上と利益の構造について~

Kei-kun
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僕はスーパーマーケットで働きたいと思っているんですが、スーパーマーケットがどんなビジネスモデルで成り立っているのか知りたいです。教えてもらえませんか?

この記事では、そんな悩みに答えたいと思います。

本記事の信頼性

Masa-kun
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私は「販売職×食品」業界で、これまで2回の転職に挑戦してきました。

 

✅1度目は24歳の時”スケールアップ”転職

地域生協から一部上場GMSへ・・売上規模20倍の企業への転身

 

✅2度目は30歳の時”ステージアップ”転職

一部上場GMSから県域一番の食品SMへ

売場責任者(主任)→バイヤー、店長、事業責任者へ

 

タイプの違う3つの食品小売企業で経験を積む業界のプロです。
【Twitter】https://twitter.com/masa_m2

 

2022年に業界知見をまとめた著書

「スーパーマーケットの新潮流」を出版しました。

『スーパーマーケットの新潮流~生鮮DSと小商圏店舗型NS登場によるSM業界の変革』要点まとめ解説
スーパーマーケット業界は大きな転換期を迎えている。変革の主軸は、生鮮ディスカウントストアの登場。生鮮食品の鮮度、惣菜の品質、人気商品の価格、この3点を兼ね備えた新しいスーパーマーケットが圧倒的集客を実現している。もう一つの軸が黒字モデルのネットスーパー。長年赤字経営が指摘されてきたネットスーパーに新しいモデルが登場した。

 

 

そんな私がスーパーマーケットの具体的なビジネスモデルについて解説するシリーズです。
それでは本記事で取り扱う内容の紹介です。

スーパーマーケットの売上とコストそして最終的に残る利益はどのくらいなのか?そんなビジネスモデルをサクッと解説します。

それでは進めていきましょう!

スーパーマーケットのビジネスモデルにおける営業数値の解説

今回はHPで一般公表されている資料を使い、日本一のライフスタイル型(高鮮度・高品質・美味しさが特徴)のスーパーマーケットのヤオコーさんと日本一のディスカウントスーパー(驚きの安さが特徴)であるオーケーさんのリアル営業数値を比較しながら話を進めていきます。

本当は色んな要素が複雑に入っていますが、全て省いてシンプルに解説します。

用語解説【シンプル解説】
①売上高・・・レジを通った売上の合計
②売上総利益・・・売上高から仕入額を引いて残った利益。一般的には荒利益と呼ばれています。
③販売費・一般管理費・・・人件費やチラシ広告費、Web広告、商品の研究開発費、備品費、その他本社の運営費用など売上を作るために必要なコスト全部合計。
④営業外損益・・・店舗との営業と関係なく発生した利益や損益(土地や株の売買)
⑤経常利益・・・売上から全てのコスト、その他で発生した利益や損益まで差し引いて会社に残った利益のこと。⇦この利益の中から税金を納める。

2021年3月期(単位:百万円) オーケー(A) ヤオコー(B) 差額(A-B)
売上高 508,975 487,189 21,786
売上総利益(営業内利益含) 111,931 144,575 -32,644
売上総利益率 21.99% 29.68% -7.68%
販売費・一般管理費 81,540 122,117 -40,577
販売費・一般管理費率 16.02% 25.07% -9.05%
営業利益 30,391 22,458 7,933
営業利益率 5.97% 4.61% 1.36%
営業外損益 1,038 -247 1,285
経常利益 31,429 22,211 9,218
経常利益率 6.17% 4.56% 1.62%
(出所)オーケー,ヤオコーWEBサイト資料より筆者作成

それでは上記一覧表を解説していきます。
スーパーマーケットで一番大切な項目は「売上高」ということを覚えておいてください。

そして、黄色マーカーが付いている「率」は「対象数値÷売上高」のことだと覚えてください。例えばオーケーさんの売上総利益率21.99%とは、オーケーさんの売上総利益が売上の21.99%である(売上が100万円の時、売上総利益が21万9900円)という意味になります。

オーケーさんの経常利益率6.17%とは、一年間でオーケーさんが売上高から全ての支払いをして最終的に残った利益が約314億円であるという意味です。

スーパーマーケットを経営している企業は沢山ありますが、上記の2社は日本の超優良スーパーであり、普通のスーパーマーケットの経常利益率は1~2%と言われています。つまり、スーパーマーケットの売上の99%は経費で消えてしまい、残るのは1%という薄利多売のビジネスモデルであることが分かります。

【上の表から分かること】
◆上の表から、ほぼ同じ売上規模の2社ですが、商品を安く販売しているはずのオーケーさんの方が最終利益(経常利益のこと)が多いという事実

◆売上総利益率(売上-原価)を見ると、オーケーさんは商品に約22%の利益を付けて販売、ヤオコーさんは商品に約30%の利益を付けて販売しているということ。単純計算ですが、
例えば200円で仕入れた同じ商品を、オーケーさんは256円で販売し、ヤオコーさんは285円で販売しているということになります。

◆安く販売しても、店舗にかける経費(人件費や広告販売費など)が掛かっていないので、結果として利益を生み出すビジネスモデルになっており、どんどん出店しても大丈夫ということになります。
※エリアが変わると経営が難しいと言われるスーパーマーケット業界において、来年、オーケーさんは関東から関西に進出されるそうです
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20221007/2000067111.html

集客方法の違いがコストダウンを生む(ハイ&ローからEDLPへ)

コストが低いということは、ただ単に少人数で店舗を運営しているということではありません。ポイントは集客方法とそれにまつわる店舗の仕事の違いです。

1章で、一番大切な指標は売上という話をしましたが、売上を作るには集客をする必要があります。つまり、お客さんが多く来ないと売上は作れないということです。閑古鳥が鳴いている店舗で、来店してくださったお客様に一生懸命商品を販売しても売上を作ることはできないからです。

集客には大きく2つの種類があります。

①ハイ&ロー集客・・・新聞折り込みチラシを作成し、日替り特価商品を設定。通常売価では有り得ない価格をその日だけ販売し次の日から価格を戻すことで、安さと集客を実現する昔ながらの方法です。

例えば、下のヤオコーさんのチラシ。対象店舗が記載されており60店舗程度で全店180店舗あるので、3タイプのチラシが存在すると想像できます。デザイン会社で3タイプのデザインを作成し別々に印刷、エリアごとに新聞店へのチラシ持ち込みと折り込み費用の発生。

店舗では、毎日特売商品が変わるので、特売の発注、開店までに売場の値段のチェック、プライスカードの付け替え、売場変更を毎日しなくてはなりません。

でも、毎日集客できるし、特売商品も限定○○個と設定したり、メーカーさんにチラシ掲載してあげるから安くしてと交渉できたり、毎日、価格を通常売価に戻すので、大変ですが利益を削らなくても安く見えて集客できる方法になります。

ハイ&ロー集客に対して・・・

②EDLP集客・・・EDLPとはエブリ・デイ・ロー・プライスの略で、毎日どの商品も安いという意味です。チラシで今日だけこの商品が安いではなく、毎日どれも安い。チラシを見て安ければ来るのではなく、いつでも来てくださいという集客方法です。主にディスカウントスーパーの手法となります。

下はオーケーさんのチラシですが店舗名は書いていません。下の方にベーカリーが無い店舗、惣菜が無い店舗は、、、などとの注意書きがありますが、まずチラシパターンが存在していません。そして恐らくですが、チラシデザインは作っていますが、ネット掲示と店舗掲示&置いているだけで新聞折り込みはしていないと推察されます。ディスカウントスーパーの集客力は通常のスーパーの1.5倍~2倍ありますので、必要のあるお客様だけにチラシを渡せればよいです。

そして店舗では日替り商品がないので、先ほど書いた日替わり特売にまつわる業務をする必要がなくなります。しかも特売日が無いので、毎日の販売数も一定になるのでAIを活用した自動発注が可能になり人員が少なくて済むはずです。しかもどの商品も安いので、お客様は満足している状態。

チラシデザインもシンプルでお金が掛かっていません。デザイン会社がまず不要です。新聞折り込みをしないので印刷枚数も少なくて良い、折り込み料も発生しない、あれやこれや売場を作って販促物で飾り付けて、期間が終わったから解体して次の売場を作るという一連の店舗業務が無い、店舗の必要人員は大きく削減できます。

未来の集客方法とは?

外部環境を見ていくと、新聞を取っている人は年々少なくなっています。特にこの20年を観てみると上の表(新聞協会発表資料を抜粋)にあるように、1500万部減少しています。スマホが普及した昨今では、若い人は特に新聞離れが進んでいる状況です。

それでは、これからの集客方法はどうなっていくのでしょうか?

現在日本の有力スーパーでも実験が始まっていますが(ヤオコーさんのディスカウント店舗「フーディアム」など)、ハイ&ロー集客からEDLP集客へのシフトが起こっています。

日本の人口減少も相まって店舗で働く人を確保するのが難しい時代になりました。コンビニ業界では夜間に閉める店舗も出てきています。昭和の高度成長期から平成の世に出来た流通の常識がことごとく終わろうとしています。

新聞を取る人が少なくなった時代に新聞折り込み広告を未来永劫戦略として採り入れることはリスクが高いです。今はシニアの新聞購読率が高いので良いですが、あと10年もすれば新聞折り込みは効果が無くなっていくと予想されています。

いよいよ時代はEDLP集客で少人数店舗運営になっていきますが、EDLP集客をするには「あの店は安いよね~」という地域住民の共通イメージを作って行く必要があります。今までスーパーマーケットのハイ&ロー集客でずーとやってきたスーパーのイメージ変更は難しいでしょう。

既存スーパーからディスカウントスーパーへのモデルチェンジはこれまで失敗している事例が多いですし、特売の仕事がいきなり無くなったら、本社も店舗も困る人が沢山でるからでもあります。さてどうなっていくのでしょうか?

まとめ

私はこれからのスーパーの主流は2分化され、やはり高鮮度、高品質、美味しさを提供するライフスタイル型スーパーと、圧倒的に価格が安いEDLPのディスカウントスーパーに集約されると思います。

ライフスタイル型のスーパーの人気は一定落ちないと思いますが、日本人の所得が下がる中、主流はEDLPディスカウントスーパーになるはずです。この記事の一番最初の営業数値にあるように商品を圧倒的に安く販売しても、集客を成功させ低コストで店舗運営した方が最終利益を残せるビジネスモデルが確立できていることが証明しているからです。

これは昭和に起こったダイエーの流通革命に対して令和に起きるオーケーの流通革命になるのかもしれません。

この度も記事を読んでいただき有難うございまいた。これから「販売職×食」業界の小売流通業へ挑戦しようと思われている方に参考になれば幸いです。ぜひこれからのムーブメントを読み、業界を渡っていただければと思います。さらに詳しい情報につきましては、私の研究書の無料の要約記事がありますので、是非ご一読いただけると嬉しいです。

『スーパーマーケットの新潮流~生鮮DSと小商圏店舗型NS登場によるSM業界の変革』要点まとめ解説
スーパーマーケット業界は大きな転換期を迎えている。変革の主軸は、生鮮ディスカウントストアの登場。生鮮食品の鮮度、惣菜の品質、人気商品の価格、この3点を兼ね備えた新しいスーパーマーケットが圧倒的集客を実現している。もう一つの軸が黒字モデルのネットスーパー。長年赤字経営が指摘されてきたネットスーパーに新しいモデルが登場した。

転職を計画されている方は必見!

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【Twitter】https://twitter.com/masa_m2「販売職×食」業界の専門家|経歴:生協、GMS、食品SM|職務:バイヤー、店長、ネットスーパー、マーケティング(MD立案)|「販売職×食」業界の歩き方、昇り方、渡り方について発信します。

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